水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-10

   水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-10

(9の続き)

 一方この作品では、ひっそりした早朝の空気を乱さぬよう、大八車の下からそっと覗いたような風景にするため、地べたに座り込み、出来るだけ低い視点をとりました。

 朝市へ向かう人物を正面に据え、路地に差し込む朝の光と影を主題に描きました。

朝市へ向かう(説明1)

 スケッチの際、立って描くか座って描くかだけでも、これだけ見え方が変わります。描き始める時には、構図の基本となるその主題に相応しい視点を定めてください。(1-11へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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at 22:04, 篠原 貴之, 水墨画デッサン入門

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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-9

  水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-9

(8の続き)

左の作品は、手前から野菜や売り子のおばさん、ガスボンベにリヤカー、買い物を終えたおばあさんと続く朝市の道端の風景を描いたものです。

薄日さす(説明1)


「早春図」のところで、見下ろす視点は、地平に広がる個々のものを描いてゆくのに都合がよいと説明しましたが、この絵などはまさしくその例です。

「早春図」のように、もっと視点を上げ二階から見たように描けば、物と物の重なりがなくなり、ひとつひとつの形がもっとはっきりと見えます。でも、あまり特別な視点になると自然な臨場感が失われるので、この絵では、立って見た程度の高さに視点を定めました。



薄日さす(説明2)


もし、座って視点を下げると、このように物とモノとが重なり合い、置かれたものの一つ一つの面白さに目を止めることが出来なません。仮にこの構図であれば、奥の人物をメインに据えた、奥行きを意識した絵作りが必要だと思います。

「薄日差す」という絵は手前から二人目の人物の表情に魅かれて描き始めた絵なので、この視点となりました。




薄日さす(説明3)



一番手前の大根のある一角だけは、構図をとった視点より上から少し覗き込むように見て、こちらに迫ってくるような遠近感を出そうとしました。(1-10へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-8

 水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-8

(7の続き)

主題に相応しい視点を

1)篠原貴之「薄日差す」、「朝市に向かう」

薄日さす 朝市へ向かう

ここではもう少し身近な風景を描いたスケッチ感覚の作品を見てみましょう。

「薄日差す」「朝市に向かう」は、ともに能登半島は輪島の朝市で描いた作品です。
構図をとる際の視点を比較してみましょう。(1-9へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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at 23:27, 篠原 貴之, 水墨画デッサン入門

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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-7

 水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-7

(6の続き)

まず画面上部、明るい空を背景に描かれた木立を見てみましょう。

画面の下三分の二を手のひらで覆ってみてください。構図を作った視点よりぐっと木立に近づき、木立を下から見上げて描いています。それによって高い木々に囲まれた山里の雰囲気や、横位置の絵ですが上への広がりや奥行きを感じさせてくれます。

一方小川は少し上から覗き込むように見下ろして水面を広く扱い、この絵の入り口のような役割を果たしています。小川は橋を超えたところで見えなくなりますが、水の流れは続き、そこから大きく左へ曲がり画面の左奥へと向かいます。この流れに呼応するように、草木を同じ方向に向かってたなびかせ、観るものの意識をうまく画面の奥へと誘い込んでいます。

このように一見そのまま描いたように見えるモチーフも、すべて作者の作り出した形なのです。

1-7説明


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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-6

 水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-6

(5の続き)

名画からデッサンのヒントを探る

2)竹内栖鳳「晩鴉」

竹内栖鳳「晩鴉」

 「晩鴉」は竹内栖鳳の晩年の作で、抽象画とも思える自由な墨使いが魅力的な作品です。「早春図」とはうって変わり、普段ものを見ている視界の広さで、自然に風景を捉えています。

 ところが構図は一つの視点から見たように組まれていますが、ひとつひとつのモチーフをよく見てゆくと、それぞれに相応しい視点から見た形に描き換えられています。(1-7へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-5

 水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-5

(4の続き)

名画からデッサンのヒントを探る

1)郭煕「早春図」

郭煕「早春図」

 ここで今まで見てきた三つの視点の理解を深めるため、先人の名画を見てみましょう。最初は宋代の画家 郭煕(かくき)の「早春図」です。この絵は三つのすべての視点を一枚の絵の中に盛り込んだ名作です。

 対面する山の中腹に登り、眼下に広がる山裾から山頂までをなめるように眺めたような景色です。特にこの絵の見所は、画面の半分を占める「見下ろす視点」です。この視点は地平に広がるもの(水面、道、など)やそこに置かれたものを個々に見せたりするのに有効です。

 この絵では水辺があり舟があり人がいて、滝があり沢を遡ると楼閣に行き着く、と山の内容を示しつつ観るものを山の奥へと誘い込みます。きっと作者はこの風景を本当に見下ろしたのではなく、山中を歩き、目にした水辺の景色や滝や楼閣をイメージの中で上空から眺め、一つにまとめ上げたのでしょう。

 「見下ろす視点」は少し緊張感があり、また視線が地面にぶつかり、抜けていきません。背の高い木などの上への方向性も上から見ると消えてしまうので、全体に重たい雰囲気になりがちです。しかしここでは、見下ろす部分の両脇を水と春霞で白く抜きながら上の視点につなげ、早春の明るさ、軽さを失わないように工夫されています。

 画面中央では山を絞り込み、視線が山の両側に抜けて開放感のある奥行きを作り出し、上部は一転して、近寄りがたい崇高な山の姿を添え、実に懐の深い絵になっていると思いませんか。山の絵の中央に奥行きを取り入れた発想が、この絵を非凡な作品たらしめています。(1-6へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-4

 水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-4

(3の続き)

■スケッチに出よう

 それでは実際の風景をA図、B図、C図に対応する視点で描いてみましょう。

同じ地平から見たE図から始めましょう。家の右と左の面の割合を決め、屋根の傾斜を決め木立を描き入れれば問題なく描けるでしょう。


デッサン入門1-302

 さて厄介なのはD図とF図です。

 いざ立方体を手がかりに描こうとしても実際の家や木立の中には水平な底面や上面がありません。このような場合は適当な場所に水平の線を想定します。家には屋根の庇のあたりでぐるりと水平の線を描き、木立には上部の円錐形と下部の半球型の境目に水平の線をひいてみましょう。これらの水平の線で切った断面を立方体の時の上面や底面と考え、その見え方で上から見た感じや下から見上げた感じを出してゆくわけです。

 そして今度は一本ずつの木の形だけでなく、一直線に並んだ三本の木立に注目すると、三本ともほぼ同じ高さならそれらを繋いだ線も水平です。見上げたD図では遠ざかるほど下がり、F図では上がってゆきます。見る位置によって変わってゆくこの形や大きさの違いがモチーフのイメージを決定づけます。

 木のような有機的な形であっても、このように視点の違いによる固有の形がありますので、どんなものでも視点を意識して描くとモチーフがぐっと息づいてくるでしょう。(1-5へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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at 23:20, 篠原 貴之, 水墨画デッサン入門

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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-3

 水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-3

(2の続き)

初回のテーマは視点です。

対象を捉える際、もっとも基本となるのが視点です。輪郭だけを追って形を写していると、細かく描いているにもかかわらずなかなか形が取れないことがよくあります。
視点を見極め、形の成り立ちをしっかり把握すると、大雑把に描いていても対象をうまく捉えることが出来るものです。

視点についての理解から始めましょう。


■基本

まず立方体で考えてみましょう。

デッサン入門1-301

立方体を描こうとしたときに最初に考えるのは正面から見たB図です。

右の面と左の面の見える割合を決めたら(B図では2対3ほど)立方体を上げてみましょう。
すると少しずつ下の面が見えてきて、それにともない垂直の辺が短くなってきます。(A図)
下げてゆくと今度は上の面が見えてきて垂直の辺が短くなってゆきます。(C図)

水平の線に注目すると、目の上にあるA図では遠くへ行くほど下がってゆき、目の下にあるC図では逆に遠ざかるほど上がってゆきます。
眼の高さにある水平線は遠ざかっても一直線の水平線上にあります。

当たり前のようですが、視点の基本はすべてこの中にありますので、A図、B図、C図をしっかり頭に入れておいて下さい。(1-4へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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at 23:53, 篠原 貴之, 水墨画デッサン入門

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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-2

水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-2

(1の続き)

 私たちが見ているものは、単に写真のような目の前の視覚的情報ではありません。

その情報が自分の記憶や体験と結びついて、自分の関心のある物事を自分の都合の良いように見ています。風景の中に想いを寄せる人が現れたなら、視覚的には点に近いような存在でも、イメージの中では風景の中心となり、周りの景色は、もはや見えていないでしょう。

ひとつの場所から見ていても、イメージの中では対象に近づいたり離れたり、時には上から覗き込んだり見上げたり、見えないところも想像しながら補って見ています。ですから水墨画等、印象を大切にする表現においては、一点透視法や二点透視法といった幾何学的な正確さを求めるデッサンにこだわる必要はないと思います。

 では感動を描くにはどうすればいいのでしょうか。

そのときの気持ちが湧き上がるように表現することが必要になってきます。具体的には目の前の題材を作り直す、組み立て直すと言うことになるでしょうか。

形を間違えないようにと恐れながら風景の言いなりになる受け身のデッサンではなく、一度題材を風景から取り出し、感じたものに相応しい形に仕立て直して画面に移し変える、攻めのデッサン、描き手主体の楽しいデッサンをすることから感動が絵に甦ります。

 ここでは絵作りの手助けとなる、形や構図の知識や考え方を、毎回ひとつのテーマを中心に、具体的なイメージと結びつけて提供していきたいと思います。(1-3へ続く)


初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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at 23:28, 篠原 貴之, 水墨画デッサン入門

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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-1

水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-1

 絵が好きな人でも”デッサンは苦手で・・・”と言われるのをよく耳にします。デッサンは面倒なお勉強と思われているようですが、私がお薦めしたいのは、楽しいデッサンです。

幾何学的にも正確な形を写してゆくデッサンは、絵が好きなものにとって確かに面倒であまり楽しくないものです。でも考えてみると、いくら正確に形を描けても自分の感じものや、考えたことを表せわけではありません。美しい風景に思わずカメラのシャッターを切っても、現像された写真の中にはそのときの感動がこれっぽっちも表れていない。そんな経験を多くの方がお持ちのことでしょう。(2へ続く)

初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊


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at 20:47, 篠原 貴之, 水墨画デッサン入門

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